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ローランドか、それ以外か
グランドピアノやアップライトピアノは作っていないものの、3万円から200万円まで幅広い機能と価格帯の電子ピアノを手がけているのがローランドです。
ピアノだけでなくシンセやオルガンの鍵盤楽器もそろえ、DJ用の機材も販売しているローランドは、ヤマハに並ぶ巨大楽器メーカーといえます。
基本のFPシリーズ
ポータブルタイプのFPシリーズは4種類あり、鍵盤はすべてハンマーアクションになります。
FP-10、30X、60Xの鍵盤は「PHA-4スタンダード」という最低ランクで、価格20万円超のFP-90Xだけ「PHA-50」と2段階グレードアップします。
ローランドもスペックの細分化が激しく、鍵盤グレードは6種類、音源は7種類くらいあります。
自分はPHA-4の鍵盤でも十分だと感じましたが、本気でピアノを練習している人には物足りないのかもしれません。
価格に比例した6~7段階グレードという製品構成は、ロードバイクのコンポーネントと似ています。
デュラエースやスーパーコーラスの最上位グレードは性能差以上に価格が大幅アップするので、アマチュアならせいぜい中間レベルで十分と思います。
ローランドのFPシリーズはポータブルタイプながら、板型の専用のスタンドとペダルユニットが別売りされています。
FP-10からFP-90Xまで、スタンドも各モデル専用に4種類販売されているのは芸が細かいです。
スタンドに乗せれば見た目は据置型のようになって、汎用のX型スタンドなどより格段に安定しそうです。
ペダルも後付け・別売りなので、めったに使わないとか掃除の邪魔になるという人にはうれしい設計です。
最安はBluetoothなし
FPシリーズは最安のFP-10を除き、新発売のFP-E50を含むすべてがBluetoothオーディオに対応しています。
30X、60X、90Xという製品名の末尾にXが付くのはBluetoothレディという意味のようです。
FP-10だけBluetoothで音声入力できない点にだけ注意すれば、ローランドは「型番・価格が上がるほど音色数やスピーカー出力が増えると」いう、わかりやすい製品構成になっています。
ポータブルタイプの同等品、ヤマハのPシリーズ、カワイのESシリーズも、最安のP-125、ES60だけBluetoothが省略されているのは同じです。
Bluetoothなしの廉価製品をさらに細分化したのが、カシオのCDPシリーズ、コルグのB2シリーズと思われます。
電子ピアノのラインナップは、鍵盤・音源に加えてBluetoothの有無で判断すると、価格とスペックの相関関係がわかりやすいです。
カタログをじっくり見比べると、ライバル会社がお互いを意識しているのか、製品構成がかなり似通っていることに気づきます。
音場再現技術
FP-60Xには「ヘッドホン・3D・アンビエンス」という特殊機能が搭載されてます。
「ヘッドフォン着用時にもピアノ本体から音が出ているように聞こえる」という音場再現技術です。
結局のところ電子ピアノの国内5大メーカーのうち、コルグ以外はなんらかのヘッドフォン音質向上機能を上位機種にそなえていることになります。
音場再現や定位に関するものから、ヘッドフォンのタイプに合わせたものまで、さまざまです。
アコースティックピアノの消音機能と同じで、搭載スピーカーの良さよりヘッドフォン向けのオプションを重視する顧客層もいるように思われます。
音源自体の品質にこだわるよりも、出力時にエフェクトを加えて、高性能なヘッドフォンで聴いたほうが、体感的なクオリティーは増すかもしれません。
ただしローランドの3Dアンビエンスについては、「ピアノ音色以外には効きません」とネット上のナレッジベースに書かれていました。
ピアノ以外の音色も多用する人には、あまり意味がないのは残念です。
参考
ヘッドホン3Dアンビエンスはどのような効果がありますか?Roland
FP-90Xにはさらに上位の「ヘッドホン・アコースティック・プロジェクション」という技術が採用されています。
これは据置型ピアノでも、最上位のLXシリーズにしか搭載されていないテクノロジーです。
LXのスピーカー・システムには同じ名前の「アコースティック・プロジェクション」と設計手法が適用されています。
FP-90Xはコンパクトなポータブル型なので、さすがにスピーカーまわりの技術は簡略化されています。
「リアルな響きや奥行き感」「ピアノの胴鳴りも再現」…という説明からすると、「ヘッドホン・3D・アンビエンス」の上位互換と推測されます。
ただこれもピアノに特化した音場再現かもしれず、ほかの音色に適用されるのかは不明です。
ポータブル最上位対決
やはりFPシリーズのなかでもFP-90Xだけは別格です。
鍵盤、音源が上位製品のHP~LXと同じだけでなく、ヘッドフォンまわりの技術も最高級のものが搭載されたモンスターマシンです。
20万円近くする卓上型の最高峰として、ローランドのFP-90Xは、ヤマハのP-525、カシオのPX-S7000に匹敵します。
カワイの最上級ES920は15万程度で買えて、ほかよりちょっと安めです。
スピーカーの性能にこだわらず、可搬性重視でポータブル電子ピアノを究めるなら、この3台が最終目標になりそうです。
いずれも小型ながら、各社シリーズのなかで鍵盤・音源・付帯機能が別格のハイエンドに位置づけられます。
見た目で選ぶなら、カシオのPX-S7000がカラバリ豊富でデザイン性も高いです。
とはいえFP-90XとP-525も昔ながらの黒いキーボードという感じで、質実剛健な渋さを感じます。
GO:PIANO88の謎
ローランドの電子ピアノでもっとも安いのはGO:PIANOシリーズです。
公式サイト上では「キーボード」に分類されていますが、鍵盤がバネ式である以外は電子ピアノといえそうな構成です。
最安価格帯なのに同時発音数128はあり、しかもBluetoothにも対応しているという、隠れた名機です。
Amazonのクラウド音声サービス、Alexaを搭載した実験的なバージョンも存在します。
GO:PIANOは61鍵、88鍵というメリハリの効いたラインナップで、なぜか88鍵のほうは音色数がたったの4つと、極端に絞られています。
同じ製品の鍵盤数違いで、基本スペックがなぜ違うのか謎ですが、そのせいか88鍵のほうが61鍵より安く売られる逆転現象が生じています。
コルグのLianoを買う際、GO:PIANO88と迷いましたが、鍵盤の軽さ、音色の多さで前者を選びました。
GO:PIANOのBluetoothは魅力的でしたが、やはり音色が少なくオルガンも1つしかないというのが不満でした。
とはいえ「基本的にピアノしか弾かない」という人なら、エレピもオルガンも余計な音色は不要かもしれません。
GO:PIANO88は演奏・練習に特化したストイックな電子ピアノといえます。
GO:KEYSが進化
2024年にGO:PIANOの姉妹品、GO:KEYS 3/5が発売されました。
GO:PIANO(GO-61P)と同形状だった旧GO:KEYS(GO-61K)から、見た目も機能も大幅にアップデートされています。
旧型は赤色一色でおもちゃっぽい外見でしたが(これはこれでよい)、新型は流行のニュアンスカラーが取り入れられています。
GO:KEYS 3はターコイズ、ダークレッド、ミッドナイトブルーで定番のブラックがなく、GO:KEYS 5はグラファイト、ホワイトのモノトーン系統です。
いずれもBluetooth搭載で、ZEN-Core音源の1,154音色、自動伴奏や録音機能などもひととおり付いています。
ZEN-Coreは高級シンセのFANTOMシリーズと同じなので、この価格帯にしてはうれしいオプションといえそうです。
GO:KEYS 3も5も61鍵で、本体の色が違う以外、見た目はほとんど同じです。
強いていえばスピーカーのカバーのパターンが違います。
5のほうはステレオ、マイクの入力端子が増え、スピーカーにパッシブラジエータが付いて機能強化されているようです。
3と同サイズながら、スピーカー出力時の音質向上には期待できそうです。
ただ鍵盤の数や構造、音源はまったく同じなので、実売2万円の価格差を考えると、たいていの人にはGO:KEYS 3で十分かもしれません。
ヘッドフォンを中心に使う人には、5の売りであるパッシブラジエータも関係ないです。
コルグやカシオのビビッドな色彩に比べて、新型GO:KEYSの微妙なカラーは今っぽく見えます。
このおしゃれな外観で、88鍵バージョンの新しいGO:PIANOも発売してくれるとうれしいです。
ローランドのオルガン
ローランドはピアノやシンセだけでなく、多段鍵盤の電子オルガンも製造しています。
ミュージック・アトリエシリーズのうち、今でも販売されているのがATELIER Combo AT-350Cです。
2段鍵盤の大型モデルですがスタンドは別売りで、黒ベースのモダンな外観をしています。
ステージ・キーボードのV-Combo VR-09-Bも、オルガン関連の機能が強化された機種です。
ドローバーのようなハーモニック・バーという操作部があり、トーンホイールをデジタル再現した音源も搭載しています。
ローランドのオルガン製品はいずれもカラーがモノトーンで、重厚感のある木調パネルを使っていないのが特徴といえます。
鈴木楽器のハモンドオルガンや、カワイのチャーチオルガンのように「いかにもオルガン」という外見でなく、かえって使いまわしやすいかもしれません。
オルガン以外のピアノやシンセ音源を鳴らしても、見た目的に違和感のない機材です。
シンセと映像機材も
ローランドは鍵盤楽器以外にも、シンセサイザーやリズムマシンなど幅広いジャンルの楽器を販売しています。
個人的に思い入れがあるのはTB-303というシンセで、これを多用したアシッド・ハウスの音色が出てくるとノスタルジーにひたれます。
機材を直接触ったことはないですが、Hardfloorの”TB Resusitation”や”Respect”といったアルバムを昔よく聴いていました。
TB-303は製品名と、これを使用した楽曲などが、アニメの『交響詩篇エウレカセブン』でさかんに引用されています。
現行モデルではTB-03という、TB-303を小型化したベースシンセサイザーが販売されています。
動画のなかで、TB-03を操作している人がJoy Division “Unknown Pleasures”のTシャツを着ているのが一瞬見えます。
ピーター・サヴィルの名デザインが、アナログシンセの雰囲気づくりにも役立っているようです。
映像用の機材としてはローランドのV-5というビデオミキサーにあこがれていました。
20年以上前ですがノンリニア編集をしていた頃、リアルタイムで映像をミックスできるV-5は革新的でした。
現在も映像用のミキサーやスイッチャーは継続販売されていて、4K解像度やHDMI入力に対応した新機種が登場しています。
もっともコンパクトなV-1HDでさえHDMI入力が4系統もあり、BPM SYNCや各種エフェクトまでそなえていて、技術の進化におどろきます。
名前の由来
いまや「ローランド」といえば、世間の人は楽器メーカーより元ホストの有名人を思い出すのではないでしょうか。
Google検索でもトップはかろうじてローランド株式会社ですが、2位以降はROLAND GROUP HDのWikipediaやYouTubeが拮抗しています。
良くも悪くもメーカーの知名度向上に役立っているとは思います。
いちおう参考のためROLANDさんの著作を読んでみたのですが、名前の由来や楽器メーカーとの関係については記載されていませんでした。
YouTubeを見ると自邸ではBGMが流れていたり、クラシックやジャズにも詳しそうですが、特にピアノを弾いているシーンは出てきません。
マンガ版『ローランド・ゼロ』には、「シャルルマーニュの聖騎士ローラン」にちなんでローランドという源氏名を授けられるシーンが出てきます。
ただこれもホスト漫画『夜王』の上条聖也をもとにした、道明寺セイヤという架空のキャラのセリフなので、事実かどうかはあやふやです。
Wikipediaによると、ローランド株式会社の社名もやはり中世ヨーロッパ叙事詩のローランから取られているそうです。
騎士道精神における勇敢さや忠誠心など、ポジティブなイメージを連想させるローランドという名前は、社名としても源氏名としても都合がよかったのでしょう。
数々の名言で有名なROLAND氏…
楽器メーカーとしてのローランドも、他社とは異なる独自路線をつらぬき、多くの名機を輩出しています。
特に2015年に発売された据置型ピアノのKIYOLA(きよら)は、家具メーカーのカリモクとコラボした至高のインテリアピアノです。
KIYOLAに関する情報は、別途こちらの記事にまとめました。