電子ピアノの買い替えについて検討していると、「インテリアピアノ」というジャンルがあることを知りました。
おもにヤマハとカワイが使っている用語ですが、ローランドやカシオにもデザイン性を意識した「家具として映える」製品が存在します。
据置固定型で20万以上、高いものでは100万を超えるので予算オーバーです。
しかし経済的に余裕ができて、大型ピアノも置ける広い家に住めたら、見た目重視でピアノを選んでみてもいいかと思います。
モダンデザインの傑作、ローランドのKIYOLAとカシオのPriviaを比べつつ、ヤマハ・カワイの猫足(カブリオールレッグ)ピアノについても調べてみました。
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家具としてのピアノ
大型の据置型電子ピアノはリビングで大きな面積を占め、「家具」としての側面もあります。
ピアノという文化においては機能よりも外観やデザイン、ステータス性を重視して選ぶ顧客層もいると思われます。
木製へのこだわり
外見がプラスチックの電子ピアノは家電のようですが、木材だとほかの家具ともなじみやすく統一感を出せます。
スピーカーやミニコンポのように、ピアノも木製にこだわりたいというニーズはありそうです。
しかし天然の木材がいいのはあくまで外観上の話で、それで「スピーカーの響きがよくなる」とか性能上のメリットはなさそうです。
趣味の道具として高級車の内装と同じく、パネルにレザーや銘木を貼るような感じなのでしょう。
ピアノが黒い理由
本物のピアノらしいツヤツヤの黒塗りも高級感があるとはいえ、どんな家にも似合うかというと微妙です。
「ペンキ塗りより白木を好む」という日本人の感性を考えると、天然木でソープやオイル仕上げのピアノがあってもよさそうな気がします。
カワイの特集ページによると、日本で黒塗りのピアノが普及した背景には、湿気に強い漆塗りの伝統や、「黒は高級」というイメージがあったようです。
近年は木目調のピアノが増え、さらに明るいライトオーク系の需要が増えているという傾向もうなずけます。
1952年に発表されたアルネ・ヤコブセンのアントチェアも、最初は座面のひび割れを隠すために黒く塗られていたそうです。
歴史的に有名なT型フォードも、耐久性と経済性の観点から黒色塗料が採用されたという経緯があります。
「高級感」という意味では、ロイヤルブルーやパープルも一般的には高貴な色と認識されています。
しかし量産品という製造上の都合もあって、最大公約数的にブラックが選ばれたのかもしれません。
棚にもなるピアノ
懸垂台が物干しとしても便利なように、天板がフラットなタイプのピアノは棚としても活用できます。
いずれ弾かなくなったとしても、高価な物置として役に立つ(つぶしが効く)のは、ピアノの利点のひとつです。
そう考えると、将来の棚としてもインテリアに映える木製ピアノに投資するのは、悪くない選択だと思います。
コルグC1 Airの商品説明には、「キー・カバーを閉じるとフラットになり、テーブルとしての利用も可能」と書かれています。
ローランドのDP603の外観も、「鍵盤蓋を閉めるとすっきりフラットになるキャビネットは、2003年の発売以来変わらない人気のデザインです」と説明されています。
コルグほどあからさまではないですが、暗に棚としてのサブ用途をほのめかしているようです。
飲み物をこぼしたりして内部に液体が入るとやばそうですが、簡易的なテーブル・棚としての活用法は、暗黙のうちに認められていると思われます。
上面フラットになるタイプの据置型ピアノも、家具としての実用性を意識した一種のインテリアピアノと呼べるかもしれません。
KIYOLAか、それ以外か
現行機種の木製ピアノとして、圧倒的な存在感を誇るのがローランドのKIYOLA(型番KF-10)です。
2015年のグッドデザイン賞受賞作品で、ついでに「ウッドデザイン賞」というジョークのような木製品関連の賞もとっています。
カリモク家具とコラボ
KIYOLAはローランドが国内家具メーカーのカリモクとコラボした、Made in Japanの商品です。
愛知県のカリモク工場で部材をつくり、静岡県のローランド工場で組み立てているらしく、隣県で協業しやすいメリットもあったのでしょう。
静岡なら飛騨高山や長野の松本といった家具産地も近いですが、東海道新幹線や東名高速でつながった愛知県のほうがアクセスはよさそうです。
カリモク家具の本社も名古屋より南の知多郡にあり、愛知のなかでも浜松寄りといえます。
ちなみに国内楽器メーカー、ヤマハ、カワイ、ローランド(さらに鈴木楽器)の共通点は、拠点が静岡県浜松市にあるというところです。
Wikipediaによるとヤマハの出身者がカワイを設立して、さらに元カワイ社員が鈴木楽器を始めたそうです。
のれん分けというか人脈も共通するところがあって、3社の製品やサービスが似ているのかもしれません。
以前、新幹線の浜松駅で降りたら、駅構内に楽器の展示ブースがありました。
JR浜松駅にも各メーカーのグランドピアノが置いてあり、地域の特産品としてPRに力を入れているようです。
経年変化する無垢材
ウェブに公開されているKIYOLAの製造動画を見ると、脚や側板はNCマシンで仕口が加工され、本物の家具のように組み立てられています。
さすがに値段は高額で40万円くらいしますが、ここまで素材と加工法にこだわったピアノは他になく、唯一無二の存在といえます。
脚は板材でなく丸棒の4本脚になっていて、アームトップもソファの肘掛けをイメージした曲面仕上げになっています。
ピアノ側面の上端(腕木)が、意味もなく手で触りたくなるような丸みを帯びた形状になっていて、椅子の肘掛けのようにエージングを楽しめそうです。
筐体が無垢材なので、天然木の経年変化も楽しめるのがKIYOLAの特徴です。
時間が経つにつれて化粧板がめくれてくることもなく、傷や汚れも味になるので親しみを持てそうです。
ハモンドオルガンの側板
かつてハモンドオルガンのレトロな外観に魅力を感じて、鈴木楽器のXK-2を買ったことがあります。
ただ木材のように見える部分は安価な化粧材だったので、時間がたつとペロッとはがれてきて安っぽい印象を受けました。
現行機種の2段鍵盤SKX PROには、本体に後づけできるウォールナット製のサイドパネル(SBW-SKXPRO)がオプション販売されています。
定価4万円以上するので、さすがに突板ではなく無垢材のようです。
ローランドのKIYOLAは外観だけでなく中身もリアルな木にこだわったという、稀有な商品です。
価格は跳ね上がるかもしれませんが、オルガンメーカーも側板だけでなく全体に天然木を取り入れたら、本物志向のユーザーにうけると思います。
ウォールナットも同価格
KIYOLAは明るいオーク色が目立ちますが、木目を残したホワイト塗装と、ウォールナットのバージョンもあります。
見た目が焦げ茶色のピアノもよくあるとはいえ、ウォールナットの無垢材が使われた製品はめずらしいと思います。
家具の分野では高級材とされますが、KIYOLAのウォールナットはオークと同価格なので、お得感があります。
オークは使い込むにつれて色が濃くなり、肌が触れる部分は徐々に黒ずんで、見方によってはみすぼらしくなっていきます。
ホワイト色もかなり汚れが目立ちそうです。
ウォールナットは逆に色が明るくなっていくので、クリーンなイメージを保ちたい人にはこちらの方が向いているかもしれません。
もともと色が濃いので、皮脂が付着したり、脚に掃除機をぶつけても、変色や傷が目立ちにくいはずです。
いずれのカラーもおそらくウレタン塗装なので、見た目の変化はそれほど激しくないと思います。
ウレタンといっても最近主流のマット加工に見えるので、いかにもニス塗りのツヤツヤした人工的な質感ではなさそうです。
せっかく無垢材を使うなら、オイル塗装やワックス、ソープ仕上げが選べたらうれしかったです。
ただし中身は精密機器なので、べとべとしたオイルや石鹼水で丸洗いするのは、現実的でないともいえます。
限定だったシアーブラック
過去のニュースを見ると、2017年に数量限定でKIYOLAのモカブラウン色、2018年には新色のシアーブラックが販売されたようです。
シアー(sheer)という英単語は「透明な、薄い」という意味があり、木目のテクスチャーを残したクリア塗装と考えられます。
参考
カリモク家具と共同開発した国産ピアノ。天然木の木目を活かした「シアーブラック」を限定販売Roland
木部だけでなく、操作部のパネルやペダルのケース、椅子の生地までブラックに統一された精悍なモデルです。
希少な無垢材でありながら、あえて木の存在感を減らしたブラックというのも渋く感じます。
黒色は安価な樹脂製キーボードの定番なので、一見安物の据置型ピアノと間違われるかもしれません。
しかし木目が透けて見える半光沢の塗装になっていて、手で触ればプリントされた化粧繊維板とは違うことがわかります。
KIYOLA特有の4本脚も、黒色だとさらにスリムに際立って見えます。
現行モデルのシアーホワイトよりは、シア―ブラックのほうを定番色に加えてほしかったと個人的には思います。
元ホスト界の帝王、ローランド氏が住むROLAND HOUSEはモノトーン基調のクールなインテリアなので、KIYOLAのシアーブラック色ならばっちり似合いそうです。
名著『俺か、俺以外か。』の続編『君か、君以外か。』のなかに、ROLAND HOUSEの写真が掲載されています。
北欧家具と似合う
KIYOLAは足が板でなく、独立した円柱状になっているのもポイントです。
このおかげで見た目がかなり家具っぽくなっているため、北欧家具を中心にしたインテリアにも似合うと思います。
デンマークやフィンランドの家具は空間を広く見せるため、ソファやサイドボードであっても4本脚で下が抜けているものが多いです。
このほうがホコリもたまらず、掃除も楽だと思います。
さらに見た目をすっきりさせるためか、KIYOLAの3本ペダルは独立したケーブル接続になっています。
ここは賛否両論ありそうですが、私はペダルをめったに使わないので丸ごと外せてありがたいです。
スタンドにペダルを固定すると、デザインの自由度は大幅に制限されます。
グランドピアノのように上から支柱を下してくるか、床面近くに横材を設置、もしくは背面全体をパネルで覆うかたちになると思います。
あくまで見た目の家具らしさと空間の抜け感を優先して、KIYOLAは独立式のペダルユニットを採用したように思われます。
機能は大幅に省略
カリモクが他社と手がけた商品といえば、イトーキのvertebra03 WOODを思い出します。
オフィスチェアの背と座に国産のクリ材を使用したもので、通常のファブリック・クッション版より価格が倍くらいに設定されています。
KIYOLAもローランドの同等スペック製品よりはるかに高級で、上位シリーズのLX-5やLX-6より高値で販売されています。
外観がすばらしいとはいえ、鍵盤も音源もワンランク下で、スピーカーのアコースティック・プロジェクション機能とヘッドホン・3Dアンビエンスも省略されています。
外観重視のためか、有機ELやLCDのディスプレイも備えていません。
ボタン類は鍵盤の左側、狭いパネルに集約されていて、スピーカーも目立たないよう本体底面に隠されています。
音色は6つだけ
「操作ボタンが少ない」というデザイン上の制約もあってか、KIYOLAの音色はわずか6つしかありません。
ほかの据置型LXとHPシリーズは300音色以上、ポータブルの最安FP-10でも15は音色があるので、思いきった割り切りです。
GO:PIANO88の4音色よりはかろうじて多いですが、40万円の高級ピアノとしては大胆な仕様といえます。
このメリハリというか引き算のコンセプトがむしろローランドらしく、おかげで上面パネルのガジェット感を減らせています。
こうした細かい工夫の積み重ねも、グッドデザイン賞の受賞につながった一因かと思います。
ピアノ用の椅子
ピアノはたいてい座って演奏するため、椅子も不可欠なパーツの一部といえます。
KIYOLAは椅子もカリモクによって、専用のものがセットで販売されています。
カシオも椅子だけですが、家具メーカーとコラボした専用品をPrivia最上位モデルのために用意しています。
KIYOLA専用椅子
KIYOLAの椅子はピアノ本体と同じく4本脚で、素材も同じなので統一感があります。
見た目はすっきりしたスツールのようですが、ピアノ用なのに「高さ調整ができない」という強気の設計になっています。
シートハイは52cmで、普通の国内向けダイニングチェアに比べると5cmくらい座面が高いです。
後部が盛り上がったクッション形状は、骨盤を立てるサポート機能をそなえています。
クッション材も高密度のウレタンが使われているらしく、ネット通販の安物とはぜんぜん品質が違いそうです。
椅子の張地については記載されていませんが、カリモクが得意とする高品質の合皮でないかと思われます。
これだけのスペックでカリモク製なら、椅子だけでも4万以上しておかしくない代物です。
背もたれこそありませんが、デスクでの作業やダイニングテーブルでの食事にも兼用できそうな、しっかしした構造のスツールに見えます。
カシオのピアノ椅子
カシオの据置型ピアノはオーソドックスなデザインですが、広告用の写真には高級家具メーカーの製品を採用してイメージアップを図っているようです。
カタログを見るとACTUS、ASPLUND、MASTERWALなど家具ショップ/メーカーの撮影協力クレジットが見られます。
そしてカシオのポータブル最上位PX-S7000向けに、付属のスタンドと色味や形状を合わせた専用スツールが販売されています。
ローランド×カリモクと同じく、福岡県の関家具(CRASH GATEブランド)と共同開発されたピアノ椅子です。
こちらのテレビCM動画でも、さりげなく専用椅子が使われています。
カシオの「ピアノスツール CC-7」は、ローランドのKIYOLA付属チェアと異なり、昇降機能も付いています。
座面を回転させるタイプなので昇降に時間がかかりそうですが、可動域は490~565mmと広めに75mmは確保されています。
ピアノ専用のチェアとして、シートが円形なのはめずらしいと思います。
演奏するポジションに合わせて体を横に移動するのは不便そうですが、省スペースで使わないときも場所をとりません。
また座面が回転するので、座ったまま体の向きを変えられるメリットがあります。
定価は税込49,500円とそこそこするものの、こちらもつくりがしっかりしていてピアノ演奏以外の用途に兼用できそうです。
カシオのスツールはPrivia専用という外観ですが、単体で販売されているため、ほかの電子ピアノにあわせることもできます。
LUMEと似ている
カシオのCC-7と同じ構造の円形昇降チェアとして、関家具と同じ福岡県大川市にある、広松木工のLUMEスツールも活用できそうです。
昇降範囲は460~600mmとカシオ製チェアより大幅に広く、座面を外せばサイドテーブルとしても活用できるアイデア商品です。
オイル塗装かつネジ部分も木製なので、木の質感にこだわるかたに向いています。
タイ製ですが定価は3万円台と安く、ビーチ以外にオーク、チェリー、ウォールナットの素材も選べます。
プリヴィアとの統一感を気にせず他機種で利用するなら、LUMEスツールをピアノ椅子として購入してもいいかもしれません。