パラブーツの革靴スリッポンに賛否両論

10年履いたパラブーツのスリッポン、ANVERS(アンヴァース)のレビューです。

パラブーツのスリッポン

革靴が好きでいろんなタイプを持っていましたが、退職後に断捨離した結果、この一足だけが残りました。
さすがにソールが擦り減ってダメになりましたが、見た目がスマートで履き心地もよく、値段相応にすぐれたシューズだったと思います。

壊れるまで履きつぶしたお気に入りの革靴について、思い出を振り返ってみます。

パラブーツの魅力

30代も後半になってからは、結婚式に呼ばれることもなくなりました。
さらに仕事もやめると、もともと少なかった人づきあいはゼロに近くなりました。

スーツもまったく着る機会がなくなり、すべて処分しました。
今後、お葬式に出る機会があれば、礼服はレンタルしようと思います。

革靴も結局、使い勝手のよいパラブーツ以外は中古で売ったり捨ててしまいました。
仕事に必要だった持ち物を徐々に減らしていった結果、最後に残ったのがこの黒革のスリッポンです。

パラブーツのスリッポン

見た目の印象と履きやすさを勘案した結果、自分の余生にはこれで十分と悟った次第です。
たまに着るジャケパンくらいのカジュアルなスタイルだと、かっちりした革靴よりスリッポンのほうが似合う気もします。

パラブーツのANVERS

パラブーツといえば、シャンボードやミカエルといった登山靴に由来をもつ重厚なシューズが有名です。
ダナーのワークブーツと同じくらい、革靴の定番として不動の人気を誇っています。

パラブーツはソール交換可能な厚底モデルが多いイメージですが、実は都会的なシルエットのローファーやスリッポンも販売しています。

今回ご紹介するモデルは、2011年頃に青山の店舗で購入したANVERSという製品です。
最近の円安と物価高で、この手のモデルでも4万円以上するようですが、当時はまだ2~3万円で買えた記憶があります。

パラブーツのスリッポン

10周年記念のサービスということで、シューツリーも無料で付けてもらえたのはお得でした。
木部の表面がウレタン塗装されておらず、吸湿性がよさそうなので今でも愛用しています。

パラブーツのシューキーパー

ブランドのイメージ

パラブーツのシューズはどれも履き口にParabootというタグが付いていて、わかる人にはブランド品とアピールできるのも利点です。

パラブーツのスリッポン

それほど派手でも高すぎるわけでもなく、「靴好きの人が選ぶ老舗」という感じでブランドイメージは悪くないです。
同じくフランスの高級ブランド、エルメスが取引先だったという経緯も影響していると思われます。

パラブーツのスリッポン

ルーズなスリッポンでフォーマル感はないですが、そこそこいい靴に見えるのがパラブーツのいいところです。
スニーカーに近い感覚で歩きやすく、靴紐がないので脱ぎ履きも圧倒的に楽です。

ドライビングシューズの伝統

ANVERSはアッパーの革が柔らかく、ブレイク製法(マッケイ製法)で履き心地も快適です。
フラットなソール形状は、トッズに代表されるドライビングシューズの系統かと思われます。

パラブーツのスリッポン

つま先は細すぎず、甲の部分が薄く仕上げられ、全体的にシャープな外観になっています。
とはいえウィズはそこそこ確保されていて、指先が当たって痛くなることはありません。
革の伸縮性に助けられている部分もあると思います。

パラブーツのスリッポン

同じ革靴でも、別で持っていたグッドイヤーウェルトの重厚なタイプに比べると、パラブーツのスリッポンは圧倒的に軽量です。
かかとをコツコツ鳴らしながら、かしこまって歩くというよりも、スニーカーのように無造作につっかけて外に出られます。

パラブーツのスリッポン

それでも見た目はシックな革靴で、デートや打ち合わせにも違和感なく履いていけるという安心感があります。

自社製のラバーソール

ANVERSは一般的な革靴のように踵は高くなく、ドロップが小さく抑えられています。
ベアフットシューズとみなせるほど、ソールは平らに近い形状です。

ルナサンダルやゼロシューズを愛用している、はだしランナーの正装としてもおすすめです。

パラブーツのスリッポン

ソールの中央や側面には、Parabootというロゴが誇らしげにプリントされています。

パラブーツのスリッポン

パラブーツは歴史上、ラバー素材の靴底を普及させたメーカーとして知られています。
いまでもソールは自社生産しているようです。

パラブーツのスリッポン

手持ちのスリッポンに使われているソールは、シャンボードやミカエルのものほどぶ厚いタイプではありません。
グリップパターンは独特で、ドライビングシューズらしく溝も浅めですが、すべりやすいと感じたことは特にありません。

コンパウンドなど細かい仕様はわかりませんが、自社製造している分、ソールの特性もシューズに合わせて調整されているのかもしれません。
パラブーツの履きやすさは、ソールの構造にも理由がありそうな気がします。

糸を黒く塗る

アッパーの縫い糸は白色だったので、使い込むとだんだん汚れて薄汚くなってきました。

パラブーツのスリッポン

思い切って糸の部分にサフィールの着色クリームを塗ってみたところ、おおむね黒くなって汚れが気にならなくなりました。

パラブーツのスリッポン

もともと染色された糸ほど黒くはないですが、見た目の違和感はありません。
ステッチが革と同色になって、さらにフォーマルさが増しました。

パラブーツのスリッポン

糸が白いうちは、色がつかないようモウブレイの透明デリケートクリームを使っていました。
着色後は油分を補給するため、普通の黒いシュークリームで磨いています。

パラブーツのスリッポン

うっかり手がすべって、Parabootのタグも黒く塗ってしまったのは残念です。
外から見てパラブーツであることがわかりにくくなってしまいました。

パラブーツのスリッポン

製法のデメリット

すっきりした外観と履き心地のよさが魅力のスリッポンですが、欠点もいくつかありました。
構造上、靴底から浸水しやすいのと耐久性の低さ、そして修理の難しさです。

こうした欠点はブレイク製法という縫い方によるものらしく、いろいろと勉強になりました。

異様に雨に弱い

おしゃれで快適なパラブーツのスリッポンも、ひとつだけ弱みがあります。
防水仕様ではないため、雨に弱いという点です。

一般的に革靴は水に弱く、特にソールも革でできている高級品は雨の日に履きたくありません。
シューズのなかまで浸水してきますし、濡れたタイルのうえを歩くと滑って危ないからです。

MEERMINの革靴

MEERMINの靴はソールも革製

パラブーツは水を吸わないゴム底ですが、ソールにある縫い目からみるみる浸水してきます。
靴底が薄いので、普通の革靴より余計に水がしみ込みやすいのかもしれません。

パラブーツのスリッポン

うっかり水たまりを踏むと、一発で浸水する困ったシューズでした。

雨の日は革靴を履かなければよいのですが、出張先などで天候の読めない日もあり、靴のなかまで何度もびしょ濡れになりました。

革靴もゴアテックスがよい

以前はエーグルのラバーブーツを使い分けて雨をしのいでいましたが、引退後は出番が少なくなり、まっさきに処分してしまいました。
ゴアテックスと違って透湿性がない普通のゴム素材であるため、ブーツのなかが蒸れるのも難点です。

エーグルのレインブーツ

AIGLEの雨靴

いちおうゴアテックス製のトレッキングシューズも持っていますが、あまりに武骨でジャケット姿には似合いません。

やはり革靴も防水性の高いほうが有利だと気づき、パラブーツが壊れたあとはスピングルのシューズに買い替えました。
GORE-TEX搭載のBiz-601という革靴で、スニーカーと似た柔らかい履き心地に満足しています。

スピングルのゴアテックス革靴が最高な理由

ソール修理の相場

10年近く履いたパラブーツは、ソールがだいぶ削れてきました。

かかと側は大きくえぐれて、ゴムの切れ目から石ころが入ってきたりします。
インソールも裏側から劣化してきて、ソールに食い込んだ異物が足裏に当たるのは不快です。

パラブーツのスリッポン

アッパーの革や縫い糸はまだ無事なので、いちおうソール交換の可能性も検討してみました。

パラブーツの正規店に持ち込んでみたところ、傷みが激しすぎて修理は難しいとの回答でした。
有償でも面倒な修理を引き受けるよりは、新品を買ってもらった方がありがたいという事情もあるかと思われます。

代わりに町の修理屋さんで、パラブーツのソール交換実績をアピールしているところに相談してみました。
修理のお見積もりは、ソールとウェルトの交換に中敷きの補強も合わせて1.7万円とご回答いただきました。

インソールをはがしてみたところ、内部の金属パーツがある部分まで穴が開いていました。
たしかにここまでくると、ソール交換だけでは済まなそうです。

パラブーツのスリッポン

ヒール交換だけなら4千円というお見積りでしたが、すぐにオールソール交換必要になりそうな傷み具合といえます。
2万円近く出すなら新品を買った方がよいかと考え、修理は結局あきらめました。

ブレイク製法の欠点

ANVERSの特徴であるブレイク製法は、コバが狭くソールも薄めで、細身のシルエットをつくれます。
またソールの返りがよく、軽量で柔らかいシューズになるそうです。

パラブーツのスリッポン

その反面、アッパーとソールが直接縫われているため、修理が難しいというデメリットがあります。
一般的にはブレイク製法のオールソール交換は1~2回が限界といわれます。

パラブーツのスリッポン

このスリッポンが靴底から浸水しやすかったのも、ソールに縫い目のあるブレイク製法の弱みといえます。

グッドイヤーウェルト製法のほうが強度も高くなり、履き心地のよさと耐久性はトレードオフの関係にあるようです。

パラブーツのスリッポンは快適でしたが、寿命の短さについては妥協が必要だったのかもしれません。

まとめ

長らく愛用したパラブーツのANVERSですが、新しくスピングルの革靴を買ったのを機に処分しました。
そこそこ名の知られたブランド品ですが、さすがにここまで傷むと中古で売るのも難しそうです。

パラブーツのスリッポン

パラブーツの公式ページからANVERSは消えていますが、ADNIS、REIMS、CORAUXといったローファー製品はまだ残っています。
フランス海軍が使っていたという、有名なデッキシューズのBARTHも健在です。

革靴好きならパラブーツ定番の登山靴は押さえておきたいところ、その他のモデルも意外と良いわかりました。

耐久性の低さといったデメリットを承知で選ぶなら、ブレイク製法のスリッポンも履き心地は格別で、幸せになれると思います。

パラブーツのスリッポン

いつかお金に余裕ができたら、また別のモデルも試してみたいと思います。
パラブーツを数年で履き潰してローテーションできるくらい、リッチな大人になってみたいものです。

パラブーツのイラスト