はだし感覚のベアフットシューズ、XERO SHOESのPrio(プリオ)を購入しました。
期待どおりの薄底・柔らかソールでしたが、性能がとがりすぎていて、下手に履くと足を痛める危険があります。
ソールが薄いわりには耐久性が高く、想像以上に長持ちします。
ただ屈曲性の高さと引き換えに、アッパーが破れて靴底もはがれやすいという欠点に気づきました。
プリオは汎用性の高い定番モデルで、これ一足あればジョギングも登山もこなせます。
シンプルなデザインが気に入って、普段履きから旅行まで4年間フル活用してきました。
ベアフットブームはすでに下火ですが、トレーニング用途や子どもの足育など、ニッチな需要は続いているようです。
裸足感覚を味わえるベアフットの入門として、完成度の高い定番プリオはおすすめできます。
ゼロシューズのベアフット性能
過去にベアフットシューズが流行った際、大手メーカーが出していた「なんちゃって裸足感覚」のシューズを何足か履いた経験があります。
ソールが柔らかくてそれなりにおもしろい体験でしたが、ゼロシューズは次元が違います。
無防備に歩くとケガをしそうなほど薄底で、さすがベアフット専業メーカーは本気度が違うと納得しました。
プリオは期待を裏切らない、王道のベアフットシューズと評価できます。
驚異の薄型ソール
プリオのスタックハイトは10ミリ前後です。
インソールも含めて厚みが1センチもあれば、それなりのクッション性をイメージしますが、実際に履いてみるとあまりの無防備さに驚かされます。
ソールが薄すぎて、ちょっとした地面の凹凸も足裏で感知できるようになります。
尖った小石を踏むと結構痛いですし、夏場はアスファルトの熱が靴底から伝わってくるほどです。
さすがに裸足とまではいきませんが、この手のベアフットシューズを初めて試されるかたには、衝撃的な体験になると思います。
イメージ的には何となく犬や猫になった気分です。
むき出しの肉球で、地面をじかに歩いているような感覚を味わえます。
五感を刺激する靴
ベアフットシューズの履き心地は、内側にイボイボがついた健康サンダルと似ています。
足裏にはツボが多いので、地面からの刺激によって認知症も予防できそうです。
ゼロシューズの真価は不整地で発揮されます。
プリオを履いて山道を歩くと、ごつごつした岩や、ふかふかの落ち葉といった路面の情報を、足裏で敏感に感じ取ることができます。
全身で自然を満喫できて、リフレッシュ効果も高まります。
自然と地面の状態を気にしながら歩くようになるので、足腰のトレーニングだけでなく、脳機能や動体視力の向上にも役立ちそうです。
路上の怪しい物体や、とがった木の枝、杭などを踏まないよう、意識するようになります。
走ると足を痛める
ただし本格的なベアフットシューズを使いこなすには、それなりに訓練が必要です。
買った直後のうれしさでいきなり走り始めると、確実に足を痛めます。
かかとではなく足裏中央部で着地する「ミドルフット走法」を心がけないと、膝や腰など思わぬところにダメージが蓄積されます。
私の場合、ベアフットシューズで走ると、足の甲やすねが痛くなる(シンスプリント)症状に悩まされたことがあります。
地面からの衝撃で膝を保護しようと、足裏のアーチを酷使したせいかもしれません。
これまでのランニング人生で経験したことのない故障で、病院で診てもらっても原因がわかりませんでした。
結局トレーニングを休んで、自然治癒させるしかありませんでした。
こうしたトラブルも身体が適応するまでの過渡的なものかと思い、断続的にトレーニングを続けてみました。
しかし休み休み走ってもまた症状がぶり返すので、プリオで走るのはもう諦めました。
歩き方が変わる
ゼロシューズを履いて歩くと、無意識に足を保護しようと歩幅が小さくなり、腰の引けたような姿勢になります。
そのため、クッション性の高いランニング/ウォーキングシューズと比べて、どうしても歩くスピードが遅くなります。
通勤や旅行などでガシガシ歩いて時間を節約したいなら、普通の靴を履いたほうが効率的です。
またランニングほどではないですが、歩く際もそれなりに気をつけないと体を痛めるおそれがあります。
考えごとをしながら無造作に足を放り出していると、いつの間にか膝や腰が痛くなっていることがありました。
ゼロシューズを履いているときは、常にリハビリやトレーニングという意識をもったほうが安全です。
「歩幅は小さく」「足裏の中央で着地」…慣れるまではこの2点を念頭においてください。
プリオをしばらく履いていると、ふくらはぎの筋肉が張っていることに気づきます。
膝にかかる負担を和らげようとした結果、ふくらはぎや足裏アーチを多用するような歩き方に変わってきたように思われます。
自転車には向かない?
一般的にロードバイクでは、踏み込む力を無駄なくペダルに伝達するため、靴のソールは固いほうがいいといわれます。
ソールがふにゃふにゃのベアフットシューズは、自転車に乗るのに向かないかもしれません。
シューズをペダルに固定するビンディングシューズの場合、ソールは樹脂やカーボンでできていて、柔軟性はまったくありません。
歩くときに滑らないよう、つま先とかかとにちょっとゴムが張られている程度です。
最近はフラットペダルに普通のスニーカーで乗る機会が多いのですが、ゼロシューズで漕ぐと明らかにソールがしなる違和感を覚えます。
近所の買物程度なら問題ないですが、ロングライドでは余計な力を使ってしまう分、足が疲れやすくなりそうです。
ペダリングの練習になる
ただこれも考え方にとっては、足裏のトレーニングやペダリングの練習になるといえます。
柔らかいソールでペダルを踏むと、普段は使わない足裏の筋肉が動員されているように感じます。
また親指のつけ根にある母指球を使って、効率よくペダルをまわす感覚が鍛えられると思います。
ビンディングシューズではペダルを踏む位置が自動的に定まり、固いソールのどこを踏んでも力は伝わります。
効率よくペダルを漕げる反面、「甘やかされている」と感じることはないでしょうか?
ベアフットシューズで自転車に乗ると、補助具なしの生身の状態で、理想的なペダリングを自然と体得できるような気がします。
あえて抵抗の大きい水着を着て、水泳のトレーニングをするのと似たような練習法といえます。
プリオの構造と経年変化
ソールの薄さと柔らかさだけ注目されがちなベアフットシューズですが、プリオはその他の部分にも設計上の工夫が見られます。
柔らかいアッパーメッシュ
シューズの甲革部分は通気性のよいメッシュ素材になっています。
側面にはアディダスの三本線、アシックスの#マークのような補強材が張られていないので、アッパーもかなり柔軟性が高いです。
普通のシューズでは考えられないですが、つま先とかかとがくっつくほど折り曲げることもできます。
つま先立ちすると、ソールもアッパーも追従してぐにゃっと曲がってくれます。
そのため、電車や信号待ちのすき間時間に、カーフレイズしてふくらはぎを鍛えることも可能です。
海外製にしてはウィズも広めなので、足幅が広いかたでもゆったり履けると思います。
靴のなかで足指を自由に動かせるよう、あえてゆるに設計してあるのかもしれません。
サンダルのような固定方法
シューズの側面には反射材を兼ねたテープが2本張られていて、どちらも靴紐に引っかける仕様になっています。
靴紐を締めるとこのテープにもテンションがかかって、足全体に圧力がかかるという、おもしろい構造です。
紐一本でフィット感を調整するような、サンダルに近い固定方法といえます。
ジェネシスなどのサンダルもつくっている、ゼロシューズらしい発想です。
アッパーが破れやすい
プリオは山歩きも意識したデザインなのか、つま先部分が二重の合皮で保護されています。
本格的なトレッキングシューズには及びませんが、石ころを蹴ったり岩につま先をぶつけたりしても、指先のダメージを軽減してくれます。
ところがアッパーメッシュと違って合皮のパーツは伸縮しないため、ソールの激しい動きに追従できず、すぐにひび割れてきます。
メッシュは丈夫で破れないのに、側面から割けてくるのは残念です。
またつま先からソールがはがれてきたので、何度か接着剤で補修しました。
とりあえず普通の瞬間接着剤を使いましたが、靴用の専用品を使えばさらに強力に固定できると思います。
グリップ力は強い
プリオの靴底は全体的に「く」の字型の突起がついた、シンプルなパターンになっています。
水平方向に2か所、大きな溝が彫られていて、ここでソールが大きく曲がるようになっています。
突起の形状はシンプルですが、特に滑りやすいと感じたことはありません。
岩場でもしっかりグリップしてくれて、地味ながらすぐれたソールです。
5,000マイルのソール保証
これだけ薄いソールでありながら、耐摩耗性は相当高いようです。
4年履いて中央部とかかとは多少擦り減りましたが、くの字の凹凸はまだ十分残っています。
ゼロシューズはオリジナルソールの品質に自信があるらしく、5,000マイルのソール保証を行っています。
ゼロシューズはFeelTrueソールについて5,000マイル(約8,000km)の使用まで保証いたします。FeelTrueソールが5,000マイルの使用前に、ソール厚は残り1mmとなった場合、保証の対象となります。
新品に交換してくれるのか、ソールを張り替えてくれるのか、保証の具体的な内容は不明です。
ただし車と違って走行距離は自己申告制なので、実際は5,000マイル以上歩いていても保証を申請できるといえます。
実際に長期間履いてみた印象として、ソール厚が残り1ミリを切るまでには、かなり使い込む必要がありそうです。
おそらくソール以外のアッパーやライニングが先に破れて、寿命を迎えると思われます。
インソールで厚みを加減
薄底が特徴のプリオですが、実はインソールが最初からついています。
XEROSHOESとプリントされたオリジナルっぽい中敷きで、全体に穴が開けられて通気性を確保しています。
クッション性やアーチサポートの機能はほとんどない、平べったいウレタンの板です。
さらなる裸足感覚に挑戦したいかたは、インソールを外して履くのもありだと思います。
私にとってはインソールありでも十分刺激的な薄さだったので、ライニングの摩耗を避けるためにも、中敷きを残したまま履いていました。
その他の特徴・購入方法
プリオの履きこなし方法や意外なデメリット、買えるお店についてご紹介します。
汎用性が高い
プリオはランニングシューズという位置づけで販売されていますが、街履きから旅行まで幅広くこなせる製品です。
見た目はそれほど派手でなく、ブランド品という主張もありません。
カジュアルな職場なら、仕事にも履いて行けると思います。
今回はソールからアッパーまでオールブラックのモデルを選んだので、合わせる服も選ばず、毎日履いていました。
常に裸足感覚で生活したい、ベアフット信者のデイリーシューズには最適です。
またゼロシューズは国内で買える場所が少ないからか、ほかの人とかぶったことがありません。
同じベアフットのルナサンダルは、マラソンやトレラン大会で履いている猛者をよく見かけます。
東京などの都市部では、五本指のビブラムファイブフィンガーズを街中で履いている奇人に遭遇することもあります。
ゼロシューズはこうした類似品ほど強い主張がなく、普通のスニーカーに近いデザインなのも安心材料です。
外で目立たずに、こっそり裸足感覚で暮らしたいひとには向いています。
プリオ一足で十分
ゼロシューズにはカジュアルラインとして、スリッポンタイプのアプトス、ハナヘンプといった製品もあります。
プリオのほうが価格は少し上がりますが、ジョギングもこなすなら靴紐はあったほうがいいと思います。
またランニングに特化したHFSや、登山用のメサトレイルに比べて、機能を絞ったプリオは値段が安く設定されています。
ただ同じベアフットシューズとして、ソールの構造にそこまで違いがあるとは思えず、プリオ一足で間に合うような気がします。
プリオに防水機能こそありませんが、ソールのグリップ力は強いので普通に山も登れます。
背が低くなる欠点
ゼロシューズのデメリットのひとつは、靴底が薄いので背が低く見えてしまうという点です。
履くだけで身長が高くなるシークレット靴とは、真逆のコンセプトになります。
たとえば厚底が売りのHOKAは、ヒール側のスタックハイトが約3センチあります。
プリオは1センチなので、差し引き2センチは身長が縮まる計算です。
微妙な差かもしれませんが、ベアフットシューズを履いて外に出ると、明らかに目線が低くなったような感覚になります。
人によっては自尊心や自己肯定感も下がって、メンタルに悪影響を及ぼすかもしれません。
逆に街中で目立ちたくない人や、身長が高すぎてよく頭をぶつける人には向いているシューズです。
ソールが柔らかく音を立てずに歩けるので、忍者のような隠密行動にも適しています。
プリオを買えるお店
プリオは東京の神田にある「さかいやスポーツシューズ館」で購入しました。
いくつか試し履きさせていただき、サイズはUSA9.5(US9)を選びました。
2020年にケンコー社の販売店リストを見て、都内のスポーツ店をまわったのですが、プリオを展示しているところは他にありませんでした。
エルブレスのような大型アウトドア店でも、せいぜいジェネシスのサンダルが置いてあるくらいでした。
本気のベアフットランナーはサンダルを履くような気がするので、シューズタイプのゼロシューズは需要が少ないのかもしれません。
通販購入の失敗例
実はプリオを買う前に、ゼロシューズのJessie(ジェシー)というサンダルを試したことがあります。
つま先側は鼻緒でなく、親指まわりの紐だけで支持するという究極のミニマルデザインです。
親指と足首まわりのループがつながっていないので、サンダルの前側はほとんど親指の力だけで支えることになります。
見た目もほとんど裸足そのもので、街中で履くのはさすがに恥ずかしいと感じるほどでした。
よくあるビーチサンダルと比べても、足のむき出し感と無防備感は半端ないです。
売っているお店がどこにもなかったので通販で取り寄せたのですが、親指まわりのサイズがきつくて、まったく足に合いませんでした。
写真を見ると足がはみ出しているので、単純にサイズが小さすぎたのかもしれません。
ゼロシューズのプリオは内寸にゆとりがありますが、薄すぎるソールは履く人を選ぶシューズです。
無料の試着・返品サービスが利用できない通販よりは、実店舗で慎重にためして購入することをおすすめします。
さすがにジェシーは外観が際どくて売れなかったのか、現在はカタログ落ちしています。
前例のない攻めすぎた構造に無理があったのかもしれません。
ウェブ上ではまだ在庫が残っているようなので、ご興味のあるかたはどうぞ。
ジェシーに比べるとプリオはスニーカータイプの定番モデルとして、長く販売されています。
バージョンアップの必要もない、最初から完成度の高い製品だったのではないかと思われます。
まとめ
ゼロシューズのプリオはベアフットシューズの入門用として評価の高いモデルです。
シンプルなデザインで使いまわしやすく、履き心地のよさとソールの耐久性は期待以上でした。
ただしソールの薄さは本格的なので、ランニングやトレーニングに使うには、それなりに練習が必要です。
うまく使いこなせば、身体機能の改善や認知機能の向上など、さまざまな健康上の恩恵を受けられるかと思います。
ベアフットを見直す
2010年頃に盛り上がっていたベアフットブームはすでに下火になり、現在はHOKAやOnのような厚底ふかふかシューズが主流です。
それでもゼロシューズのようなベアフット専業メーカーがなくならないのは、根強いファンが存在するからと思われます。
薄底シューズにはULハイキングや自重筋トレと同じく、「便利な道具に頼らず身体を鍛える」といった美学があります。
ミニマリストやベジタリアン、シンプルな暮らしにあこがれる顧客層が、共感できる製品なのかもしれません。
子どもの裸足保育にも使えるからか、ゼロシューズはキッズバージョンのプリオも販売しています。
健康的な足を育てるという意味では、大人よりも子どもに履かせたいシューズです。
また何年かしたら厚底シューズの流行がひと段落して、再びベアフットシューズが注目される時代がやってきそうな予感がします。
ミニマルシューズの稀有な専業メーカーとして、ゼロシューズには今後もがんばってもらいたいです。
薄底でも厚底でも選択肢があるということは、ユーザーにとってありがたいことです。