会社をやめて地方に引っ越すと、ファッションに対する意識がだいぶ変わってきます。
不用品を断捨離しながら、それでも一足はあったほうがいいであろう革靴について考えてみました。
あらゆる用途を兼ねられる、究極のレザーシューズは存在するのか?
熟考を重ねて選んだ、メレルの本革スリッポンについてレビューしてみます。
最低限必要な革靴
仕事を引退したとはいえ、きちんとした革靴は一足持っておきたいものです。
冠婚葬祭だけでなく、高級ホテルやレストランを利用する際のドレスコードとして、品のいい革靴を履いていればまず安心です。
とはいえ現役時代のように、毎日履くのでローテーション用に何足もいるわけではありません。
用途に合わせてローファーからブーツまで使い分けるほど、履く機会も多くありません。
結局のところ、どんな場面でも恥ずかしくなく履ける、無難な一足があれば十分といえます。
内羽根ストレートチップ
男性にとって最低限そろえておくべき、リトルブラックドレスに相当するシューズといえば、内羽根式のストレートチップです。
色はもちろんオールブラック。
最もフォーマルで応用も効く、これ一足があれば最低限は間に合います。
端正な見た目から、銀行員のようなかたい職種と間違われることもありますが、取引先やお店に対して失礼になることはありません。
20代の頃に背伸びして買ったロイドフットウェアの革靴も、お店の方と相談して最初はストレートチップを選びました。
ダイナソールのゴム底で、ヒールを交換したりしながら大事に履いていました。
その後、伊勢丹新宿店メンズ館で買ったスペイン製の革靴MEERMINも、やはりストレートチップでした。
Linea Maestroというシリーズの製品です。
貧乏性なので、革靴もたいてい融通のきく無難なタイプばかり選んでしまいます。
革靴でさえあればよい
しかしながら一般的な日本人で、TPOに合わせた革靴の種類まで気にする人はごく少数派だと思います。
別にお葬式でカジュアルなローファーや、モンクストラップを履いていても変に思われることはありません。
腕時計の種類と同じで、そんな違いを気にするのは一部のマニアだけです。
フォーマルな場面では「2針の薄型、ラウンドケースで文字盤は白、そしてベルトは黒革のクロコダイル」などと信じている人は、広告に影響されすぎかもしれません。
過去20年の社会人生活で理解したのは、仕事でも結婚式でもシューズに求められるのは、「スニーカーでなく革靴でさえあればよい」という事実です。
見た目がオーソドックスな革靴であれば、ブランドや製法はどうでもよく、素材も合皮で構いません。
スーツの生地や縫製と同じで、革靴のランクなど素人にはわからないものです。
差があるとすれば、最安価格帯の製品は「何となく安っぽく見える」という程度です。
有名ブランドでなくても、少しお金を出せば高級感も十分に演出できます。
合皮という選択肢
フォーマル用途に、あくまで革靴と呼べるシューズが一足あればいいとすれば、合皮や人工皮革も選択肢に入ってきます。
最近、リーガルが力を入れている人工皮革のローファーを試してみましたが、見た目の質感やしわの入り方まで、ほとんど天然皮革と見分けがつかないくらいでした。
あくまで外観だけを気にするなら、進化した人工皮革のシューズで十分だと思います。
ユニクロのローファー
こちらは妻が最近ユニクロで買った合成皮革のローファーです。
価格は4,000円くらいしたとのことです。
クレア・ワイト・ケラーという外部デザイナーとコラボした、UNIQLO:Cというコレクションの製品です。
最近はこういう、ぽってりした厚底のローファーが流行っているそうです。
パラブーツの定番MICHAEL(ミカエル)をローファーにアレンジした、ぶ厚いソールのREIMS(ランス)と似ている気がします。
一か月くらい履いた状態で、明らかに合皮というか、エナメル革特有のくっきりしたしわが生じています。
安っぽいといえばそれまでですが、あくまで革靴、ローファーというスタイルである以上、スニーカーよりは上品に見えます。
『プラダを着た悪魔』のようなファッション業界で働くのでなければ、別に仕事に履いていっても違和感はないと思います。
人工素材のメリット
天然皮革と比べて合皮、人工皮革には「安い、雨に強い、手入れが楽」といったメリットがあります。
また動物愛護の観点から、人工素材を積極的に選ぶ人もいるようです。
実際のところ、ワニ・ヘビ・トカゲやダチョウ以外の牛・豚革は、食肉用に生産された家畜の副産物とされています。
牛革を使わなければエコというのは、あくまでイメージの問題かと思われます。
天然皮革の値段高騰という背景もありますが、人工皮革のプロモーションには「差別化を図っていろんな製品を売りたい」というメーカーの意図が感じられます。
合皮には吸湿性や伸縮性にとぼしいといった欠点もあり、革製品の愛好家があえて選ぶ理由はありません。
強いていえば、見た目や履き心地よりも「メンテの楽さ」で買われるケースがあるかと思います。
厳密には合皮シューズも長持ちさせるために手入れが必要ですが、本革に比べて圧倒的に管理が楽なのは事実です。
価格の安さ以上に、靴磨きの苦労から解放されるというメリットこそが、合理的な消費者に訴求できるポイントなのかもしれません。
国内製品への回帰
ファッション好きの男性なら、海外ブランドへの関心も高いと思います。
ただ20~30代で有名どころをひととおり試してみると、40歳くらいを節目に、国内メーカーに回帰するサイクルがありそうな気がします。
客観的に評価すると、輸入品に比べて時計はセイコー、鞄はポーター、そして革靴ならリーガルあたりが、価格と品質のバランスがすぐれています。
最近の円安や輸送コストの上昇から、インポートブランドの割高感がさらに増しています。
国産品なら修理やメンテナンスの対応もスムーズです。
時計のオーバーホールや靴底のリペアといった維持コストも安くおさえられます。
以前イギリスから10万円以上する革製バッグを個人輸入した経験があるのですが、ポーターより縫製が雑でがっかりしました。
ものづくりに対する気質や、作業の解像度といった違いが反映されているのかもしれません。
価値観の変化
「いずれはジョンロブやチャーチの革靴が欲しい」と考えていましたが、近頃はリーガルくらいで必要十分と感じるようになってきました。
ファッションの趣味というよりも、人づきあいや経済感覚の変化が大きく影響していると思います。
最近試したスピングルの革靴も、日本製でコスパは高いと思います。
田舎で隠遁している身分では、どんなに高い靴を履いていても自己満足にすぎません。
あぜ道の泥で汚れるので、履くたびに手入れが面倒になるだけです。
TPOをわきまえれば、農村で履くのにふさわしいのはワークマンの作業靴やゴム長靴です。
レッドウィングやティンバーランド、ダナーのワークブーツなども長く使えて愛着がわきそうですが、そこまで高価である必要はありません。
ブランド品依存や買物中毒のかたは、地方に引っ越せば価値観が変わって症状が緩和されるかもしれません。
見せつける相手が誰もいない、無人島に引っ越すような空しさを感じられると思います。
メレルのスリッポン
革靴についていろいろ考えていたところ、アウトドアブランドのメレル(MERRELL)が本革素材のスリッポンをつくっているのを発見しました。
海外メーカーではありますが、そもそも登山靴というジャンルにおいては輸入品が主流です。
この分野で日本人向けといわれているブランドは、キャラバン、シリオ、モンベルくらいしか思い浮かびません。
トレイルグローブ4
注目したのはメレルの「トレイルグローブ4」という製品で、ベアフットシューズとして販売されているシリーズです。
当時は裸足感覚で履ける薄底シューズにこだわっていて、メレルのゼロドロップも候補のひとつでした。
トレイルグローブは登山・トレラン用のシューズにしては、見た目が黒一色でシックに思われました。
よく観察するとソールの張り出しや黄色いVibramのロゴが目立ちますが、遠目には革靴のスリッポンに見えると思います。
さすがにゴアテックスなどの防水機能は備えていませんでしたが、アッパーのフルグレインレザーはそこそこ耐水性が強そうです。
これさえあれば街履きから山歩き、さらに打ち合わせや冠婚葬祭までこなせる万能シューズではないかと期待がもてます。
見た目はシックな革靴
革製のトレイルグローブ4は廃番になって久しいですが、当時の販売価格は1.3万円くらいでした。
Amazonに在庫があったので、”Prime try before you buy”というサービスで取り寄せ、試し履きしてみました。
全体的な見た目は丸っこくて、ビルケンシュトックやトリッペンのクロッグを連想させます。
ソールはビブラム製なので、グリップ力や耐久性には期待できます。
いちおう登山用のシューズですが、町歩きや仕事で履いても違和感のない、シンプルな外観です。
スポーツ向けのシューズは派手なデザインが多いので、アッパーもソールも黒一色のスリッポンは希少な存在といえます。
ベロが食い込む問題
メレルのスリッポンは若干狭めのウィズで、タイトな履き心地でした。
サイズは26.5センチで、自分が普段履くスニーカーより若干小さめです。
靴紐がなく着脱は楽ですが、ベロの上端が足首に食い込んで痛いような気がします。
アウトドア向けらしく、アッパーの牛革は見るからに強靭そうです。
ただし手触りは固くてごわごわした感触です。
革が固く、履き口が狭いせいか、別で持っているパラブーツのスリッポンに比べると、履き心地は明らかに固いと感じます。
ベアフットシューズという位置づけですが、ビブラムソールはそこまで柔軟性もありません。
長く履けば革がなじんで快適になるかもしれませんが、ベロの食い込みは解消できる見込みがなさそうでした。
歩くたび足首に当たる違和感があり、設計ミスではないかと思われるほどです。
メレルの現行製品
現行製品を調べたところ、メレルのベアフットシューズはトレイルグローブ7まで進化しているようです。
トレイルグローブは2011年の発売以来、改良が続いているロングセラー商品です。
つま先とかかとの高低差なし(ゼロドロップ)、靴底の厚みは14ミリと薄型です。
ソールがさらに薄い、ベイパーグローブ6というシューズもあります。
こちらもゼロドロップで、スタックハイトはたったの6ミリしかありません。
ランニング業界でも厚底シューズが主流のいま、ベアフットを作り続けているメレルは貴重な存在です。
ただしトレイルグローブもベイパーグローブも、現行品には本革素材がありませんでした。
一方でメレル定番のジャングルモックには、レザー素材の高級品があります。
こちらはソールが厚みと存在感が増すので、フォーマルな場面では気になるかもしれません。
ただディティールにこだわらなければ、ジャングルモックも汎用性の高い、革靴ライクなトレッキングシューズとみなせそうです。
便利な無料返品サービス
結局、家のなかで試し履きしただけで使用はあきらめ、アマゾンに返品しました。
”Prime try before you buy”なら返送料も無料で回収してもらえるのがうれしいです。
かつてJavari(ジャバリ)という名前だった時代からお世話になっている無料返品サービスで、シューズの試し履きにはぴったりだと思います。
古くはZappos(ザッポス)という会社が広めた「送料無料、365日返品可能」のオプションです。
2009年、ザッポスはアマゾンに買収され、現行サービスに引き継がれています。
フィッティングの難しさ
先日購入したリーガルのように、店舗でアドバイスを受けてもサイズ選びで失敗することはあります。
自分でも納得して買ったはずなのに、長く履くと問題が顕在化してくることがあります。
その点においても、店員さんのプレッシャーを感じることなく自宅で何時間でも靴との相性を吟味できるのは、ありがたいサービスです。
ある程度、経験を積んだユーザーなら、シューズのサイズ合わせも自分で判断できると思います。
着払いのコスト
無料返品サービスの欠点を挙げれば、着払いとはいえ返送が面倒だったり、輸送の環境負荷が気になったりすることもあります。
特にサイズ違いで何足も取り寄せたりすると、巨大な段ボール箱をコンビニで返送するのは骨が折れます。
無料返送にかかるコストも、実際は価格に上乗せされていると考えられます。
あまりに返送が頻繁で悪質だと、ブラックリストに載るおそれもありそうです。
もちろん試着後に気に入ってそのまま購入することもあるので、今のところアマゾンから警告を受けたことはありません。
常識的な範囲で利用していれば、問題になることはないと思います。
まとめ
「田舎の隠遁生活に適した革靴」というテーマで理想のシューズを考えた結果、メレルのトレイルグローブ4にたどり着きました。
革が固くて履き口も狭く、履き心地はいまいちでしたが、シックな見た目は期待どおりでした。
足に合いさえすれば、あらゆるシーンで使いまわせる、究極の革製スリッポンになれたかもしれません。
実際のところ、山で履くとシューズが泥だらけになるので、そのままデートや仕事に使いまわせるというのは無理があります。
極端なミニマリストでなければ、普段履きとよそいきと、シューズは2足そろえておくのが合理的かと思います。